関町ニューウエスタン

45年前から貫くチーム方針

 

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 怒声罵声の禁止、短時間練習、保護者の負担軽減など、少年野球のイメージとは異なる方針を掲げるチームが近年増えている。東京都練馬区で活動する関町ニューウエスタンもその1つだが、驚くのはチームを発足した45年前から理念を貫いているところにある。選手を中心に野球を楽しむことに、こだわり続けている。

 

【本文】

 子どもたちが真剣なまなざしで白球を追う。思い通りのプレーに表情をほころばせる。周りの監督やコーチから褒められると、よりうれしそうな笑顔を見せる。子どもたちの元気な声が響くグラウンドに、大人の怒鳴り声はない。

 

 小学1年生から6年生まで27人が所属する「関町ニューウエスタン」は1977年に設立した。怒声罵声が当たり前だった時代で、異色のチームだった。理念は「Players Centered(選手中心)」、野球を楽しむことにこだわった。当時はコーチを務め、監督を経て現在は代表に就く尾崎晋さんは45年間ぶれないチーム作りに務めてきた。

 

「今は厳しく禁止されていますが、勝つ野球を目指して厳しく指導し、監督やコーチが子どもを怒鳴ったり、手を出したりするチームを目にしてきました。そういうチームの子どもは試合に勝っても楽しそうに見えませんでした。うちのチームは子どもの自主性を育てて、楽しく野球をやろうと考えていました」

 

 チーム創設当初から怒声罵声を禁じた。保護者の負担も最小限に抑え、お茶当番や練習参加の強制などはない。土日に朝から夕方まで丸一日練習するのが一般的な中、練習は日曜の34時間。長時間練習による怪我のリスクを避ける狙いと、小学生世代では野球以外の経験を積んでほしい思いがある。

 

 チームでは習い事や他のスポーツの掛け持ちを推奨している。夏休みの合宿では、野球の練習だけではなく、川遊びや芋掘りの時間もつくる。夜は花火をしたり、大人がお化け役をするお化け屋敷をしたりする時もあったという。尾崎代表は「周りのチームには、投げ過ぎで肘を壊す選手がいました。うちのチームは、できるだけ全ての選手が試合に出られるようにしてきました。野球を楽しんで、中学で続ける選択肢になればと思っています。野球以外の知識や経験も大切です」と語る。

 

 都市部の少年野球チームでプレーする子どもや保護者の悩みとなっている「受験問題」にも、柔軟に対応している。中学受験する子どもの多くは、小学6年生になるタイミングで「受験」か「野球」かの二者択一を迫られる。だが、関町ニューウエスタンでは、受験でチームを離れる選手を一時休部にして籍を残す。尾崎代表は「チームにとっては選手が抜けるのはマイナスですが、受験を理由にせっかく続けてきた野球を辞めるのはかわいそうです。受験が終わったら、1日でも2日でも練習に来てもらい、納会ではトロフィーを渡しています」と話す。

 

 尾崎代表は、45年前に掲げたチーム方針が珍しくなくなってきた少年野球界の変化を感じている。子どもたちを怒鳴る指導者が減ってきた現状を歓迎する。ただ、自身の理念と違うチームを決して否定しない。子どもたちの怪我のリスクを抑えて野球の楽しさを伝えられるのであれば、土日どちらも練習したり、勝利をどん欲に追い求めたりするチームがあっても良いと考えている。

 

「厳しい指導方針が合う子どもばかりではありません。うちのチームは野球の楽しさを知ってもらって、野球が好きなまま次のステージに送り出すのが任務だと思っています」

 

 尾崎代表らチーム創設メンバーや歴代の指導者の考え方は、現在チームを指揮する石川誠監督にも継承されている。石川監督も怪我を予防し、野球の楽しさを伝える指導に重点を置く。受験や他の習い事などによる一時休部も快諾している。

 

「野球を好きになってもらうことが一番です。このチームで仮に芽が出なくても、上のステージに行って伸びるかもしれません。故障なく野球を続けられるようにするのが役割です。中学で野球から離れても高校で再開したり、OBとして来てくれたりするチームにしたいです」

 

 実際、OBで野球以外の部活に入った中学生が、チームの練習や合宿に参加するケースも多い。大会で優勝する、甲子園やプロを目指すだけが、少年野球の目的ではない。最近の少年野球界の変化は、関町ニューウエスタンが45年前から貫く理念は間違っていないと証明している。

 

(間 淳/Jun Aida

 

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