関町ニューウエスタン

④ノーサイン・ノーバントの理由

 

【前文】

 最近でこそ、ノーサイン、ノーバントを謳う少年野球チームを見聞きすることは増えたが、東京都練馬区の関町ニューウエスタンは45年前の設立当初からサインも犠打もない。野球の楽しさを伝えるため、できるだけ多くの選手を試合に出場させる。1本の安打が子どもたちを変えると信じている。

 

【本文】

「子どもたちは打撃が好きですから。三振してもいいから思い切りバットを振っていこうと伝えていました。バントのサインを出されてうれしい選手は、あまりいないと思います」

 

コーチや監督を歴任した尾崎晋代表は、創設当初を振り返る。もちろん、試合で勝利は目指す。ただ、それ以上に野球の楽しさを知ってもらう機会を優先する。三振や失策を責めたり、怒鳴ったりはしない。選手には「次がある」、「いいプレー」と声をかける。尾崎代表は「盗塁も選手の自主性に任せていました。周りのチームからは珍しがられましたが、サインもつくらなかったですね」と話す。

 

チーム方針は今も変わっていない。3年前からチームを指揮する石川監督もサインは出さない。バント練習をしたり、守備のサインプレーを教えたりして、選手にプレーの引き出しは増やしているが、あくまで選択するのは選手たちだ。

 

「二塁走者を刺すためのサインプレーは、子どもたちが自らやっています。高校球児やプロ野球の選手がサインを出す姿をかっこよく感じるんでしょうね」

 

 石川監督がノーサイン、ノーバントを掲げる理由は、自身の経験からもきている。野球を始めた小学2年生の時、初めて公式戦に出場した。本来は3年生以上を対象にした試合だったが、人数が足りず、スタメンで起用された。初めての打席。相手の4年生エースから、エンタイトルツーベースを放ったという。

 

「チームメートに回れ、回れと言われて必死に走りました。セカンドベースに到達したら、うれしさから膝が抜けて立っていられなくなりました。まぐれでしたが、今でも鮮明に覚えています」

 

 小学2年生で初めて記録した安打。その感触と喜びが、先のステージでも野球を続ける原点となった。ノーサイン、ノーバントの方針は、子どもたちに野球の楽しさを知るチャンスを少しでも増やしたい思いが込められている。

 

「子どもたちは1本の安打、1つのプレーで野球への取り組み方が変わりますし、楽しければ自主的に練習するようになります。実際、チームには試合で好投手から長打を放って、プレーが変わった選手もいます。自信をつける1本、楽しさを知る1本を小学生のうちに経験させたいんです」

 

 全ての選手が実戦を経験できるように、練習試合では選手を入れ替えたり、一度退いた選手を再出場させたりしている。公式戦でもメンバーを固定せず、できるだけ多くの選手を起用している。「少年野球は練習試合がメインでもいいのではないかと感じています。選手は試合に出ないと野球の楽しさを感じられないと思います」と石川監督。子どもたちが笑顔になる1本の安打をサポートする指導にこだわっている。

 

(間 淳/Jun Aida

 

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